* *  Over the sidewalks Running away from the streets we knew . * -   * * - ndex
**・,,・**・,,・**・,,・**・,,・**・,,・**・,,・**・,,・**・,,・**












小さな手を精一杯空へ伸ばして届かない星を掴む。

胸の上で祈るように手を組んで眠った幼き日。

あの日守れなかった、奪ってしまった無邪気な笑顔が忘れられなくて

十数年経った今でも眼を閉じると悲しそうに笑った君の顔がまぶたの裏に浮かんでくる。

消して消えることのない傷は心の奥でかさぶたになって存在し続けるのだ。





「…ヤ…ハレルヤ」

「…」

「大丈夫?」





真っ暗な部屋でも手に取るように解ってしまう。

自分と同じ顔をした奴が心配そうに俺を覗き込んでいる事が。

少しずつかさぶたを取っていくようにじわじわと何かが心を浸食していく。





「眠れないね」

「嘘つけ、さっきまで寝てたんだろ」

「いや、君が苦しそうなのに僕が寝れる訳ないよ」

「…なんだよそれ」





まるで意味が解らないけれど、ひどく安心してしまう。

ベッドが悲鳴を上げるのを綺麗に無視してアレルヤが布団の中に入ってくる。

冷たい。本当に今まで寝ていた奴の体温なのだろうか。

もしかしたらさっきの言葉も本当なのかもしれない。

ずっと俺を、見ていた?






「積極的ですね」

「…意味がわからないよ?」





ふ、と小さくアレルヤが笑うとまるで伝染病の様に暖かいものが体に広がり

万能な特効薬さながらに剥がれかけたかさぶたを修復していく。

ああ、自分はなんて単純なんだろう。





「ひつじが1ぴき、ひつじが2ひき」

「…それ」

「懐かしいよね。昔はよく一緒に数えた」






瞬く星を眺めながら、追いかけっこの様に羊を数えた幼き日。

どちらかが月の影に隠れてしまうまで延々と続く数えっこ。

いつから僕らはやらなくなってしまったのだろう。

いつから、僕らの月の色が変わってしまったのだろう。

いつから、僕らは……。





「いつもお前が先に寝たよな。100いかないうちに寝るから最後は何時も俺一人」

「そうだったかな?」

「そうだった」

「ごめん」

「今更謝っても遅ぇし」






嫌な思い出の箱は簡単に開いてしまうのに、綺麗な思い出にはいつも

頑丈な鍵が掛かっていて汚れないように大事に大事に仕舞われている。

滅多な事では開かないその大事な箱の鍵は今まさに隣にあるその人で。

ずっとずっと長い間、嬉しいことも悲しいことも全て共有してきた二人の心をつなぐ二つの鍵。

表裏一体のソレは僕らの月の色が変わっても、きっと絶対に変わらない。






「羊、数えるか」

「うん。今日は先に寝ないように頑張るよ」

「それも何時も言ってたな。始まる前の口癖じゃん」

「一応、いつも本気だったんだけど」

「へぇそうかい。じゃあ今日は十数年越しの本気を見せてもらおうかな」

「頑張るよ」






決して消えることのないかさぶたは万能の特効薬によって修復され、元通りになっていく。

微かに流れた血は一滴、人知れず頬を伝って落ちた。

一生懸命手を伸ばして抱え込もうとしても、小さなその手にはまだ不可能で。

砂のように大事なものが腕の間からするりと零れ落ちていく感触が

まだ幼かった僕らの小さな心に大きな絶望と無力感を植え付けた。






「ハレルヤ、僕達はずっと…」






アレルヤは重なるようにハレルヤに触れていた左手を布団の外に出して

あの頃みたいに天高く掲げた。掴めそうな物など何もない。

眼に映るものは満天の星空でも、綺麗な景色でもないただの闇だから。

それでもあの頃よりは大きくなった手。

僕らは何かが変わるだろうか。変えることができるだろうか。






そっと絡まる暖かい右手も同じように大きくて、

あの頃とは比べ物にならないくらいに逞しくて頼もしくなっていた。

今の僕達なら、きっと―…






「一緒だよね」





重なる声に暖かい光を感じることが出来る。

重なる温もりが愛おしい。

心のかさぶたは消えないけれど、僕らはきっともう、大丈夫。







End






最終回見て、書きました。つらいな。
辛い過去があったのは知ってたけど、種みたいな事になるのかな、ソマたんと。
うーん、やだなあ。← 兄弟だったらいいな。
ハレくんは消えてしまったの?アレは?無事で居て欲しいです。
二人には…いや皆には幸せになって欲しいのです。せめて生きていて。
元はビビさんに上げる予定のものでしたが暗くなったので悩み中。


モドル