* * I’m gonna hold you ’til your hurt is gone. * -   * * - ndex
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血で血を洗う最前線に私はいる。


皆は私に



女ながら、好んで馬を乗り回し


群がる敵中に突っ込んで行く勇猛果敢な女。



という評価を下した。


その評価に異存はない。


現に兜首も上げているし。


だけど……。







― 近くて遠い距離 ―







「真田殿、また突出しておられましたね」


「はははっ。大将を追っていたら何時の間にか

本陣から遠のいてしまっていたでござる」


「真田殿から逃れる事が出来るなど…よほど腕の立つ将だったのですね」


「おお、中々手ごわかったぞ!そなたよりは少し劣るかもしれないが」








愛馬に揺られながら


柔らかな笑みを浮かべて幸村は視線を空へ向けた。


討ち取れなかった将の事を思い出しているのか


それとも別の何かを考えているのか


には全く想像もつかなかったが


その横顔はどこか満ち足りたような表情をしていた。








「真田殿。真田殿も私を男勝りな女だと思われますか?」





空から返ってきた目は、先ほどとは違い驚きの色を浮かべていた。





「何を急に…」


「大した事ではないのです。

ただ皆は私を……………いえ、何でもありません」


「その様な所で止められたら気になるではないか!」


「すみません…どうかお気にないませぬよう…」


「いーや!それは無理な話でござろう!

大体気にするなと申す割には顔に「気にしてください」と書いてあるぞ」


「そのような事は…」


「ある!」








自分に向かって真っ直ぐ向けられる瞳から逃げるように目を逸らし


は風に揺られる武田の旗に視線を向けた。


幸村と会話をするだけでも胸が高鳴るというのに


こうも真っ直ぐ見つめられては自然に顔に朱が走るというもの。


見られない様に、さり気無く顔を隠した。









殿、どうなされた?」


「えっ…あの…綺麗な土地だと思って…」


「ああ」





顔は見えないが幸村が笑ったのが解った。


納得した様に相槌を打ち、言葉を続ける。





「この地は春になると桜が綺麗に咲くと聞いた事がある。


見てくだされ。あそこの木々等よく見ると蕾が見えるでござろう?」


「は、はい…」


「この近隣にある茶屋も中々美味いと評判で・・・。


1度食べてみたいもでござるなぁ」


「…はい…」


「ん、どうなされた?団子は好みではなかったか?」


「いえ…。あ、あの…お手を…」


「あ、あぁ!申し訳ないでござる!」








幸村は馬から身を乗り出して、の肩に手を置き、 バランスを取りながら桜の木を指差していた。


足がぶつかって鈍い金属音を立てている。


それほどまでに2人の距離は近かった。








「さっきの事だが…」


赤い顔であらぬ方向を向いているを横目で見て


幸村はフッと可笑しそうに笑った。





「某は、殿は確かに勇猛果敢ではあるが、 女人らしい上品さを兼ね備えた方だと思っている」


「…え?そ、それは誠ですか…?」


「勿論だ」


「あ……ありがとう、ございます」


「それに、盛装をしている姿は格段と美しいしな」


「また、そのようなご冗談を…」


「思った事を言ったまででござる」





が少し掠れた、微かな声で礼を言うと


幸村は笑いながら先の言葉を繰り返した。




もうすぐ春が来る。


そう予感させる生暖かい風が頬を撫でて行く。






「「あのッ」」



2人目を見張って顔を見合わせる。


幸村に促されては少し笑いを含んだ声で言った。






「春になったら一緒にお花見に行きませんか?」


ご迷惑でなければ、と付足すと、幸村もまた笑いを含んだ声で言った。


「奇遇でござるな。実は同じ事を言おうと思っていたのだ」


「気が合いますね」


「そうでござるな」






静かな軍列にと幸村の楽しげな笑い声が響いた。


春はもうすぐそこに。









「約束、忘れないで下さいね。楽しみにしてますから」


「ああ、勿論でござる!殿こそ、忘れたら承知致しませぬぞ」






ほんのり頬を薄紅に染めると、楽しげに笑う幸村。


そんな2人を、春を思わせる風が柔らかく包んだ。


軍列を吹きぬける風も温かい。


春はもうすぐそこに待っている。






終。




モドル