* *  Over the sidewalks Running away from the streets we knew . * -   * * - ndex
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部屋に入るとまっさきに飛び込んでくる、天井まで届きそうな雑誌の山。

初めこそ驚いたものの最近では慣れたもので、

山の崩落を防ぐために慎重に行動しなければならない事以外は

何も煩わしさを感じないようになっていた。





「新刊か…?」





全体的にピンクでほんわかした少女が表紙のその本、百合姫。

刹那はさして読む気もないが反対からパラパラと雑誌を捲っていく。





「やっぱり…理解できないな」





本を閉じて、刹那は百合姫とコロコロで仕切られた壁の反対側に

ティエリアの大事な新刊を放り投げた。ばれなければ問題ない。

前はあれほど拒絶反応があったのに。

慣れほど恐ろしいものはないと最近心底思う。













初めてこの部屋に通された時、正直かなり引いた。

1Kを無理やり雑誌で仕切ったこの部屋の異常さと言ったらないわけで。

玄関からみて壁を挟んで右は余計なものと言えばCDがある程度で少々殺風景だが普通だ。

しかし、問題は左だ。

全体的にピンクというか…アダルトというか。

机の上にフィギュアみたいなものが見える気がする。

中でも「お兄ちゃん(はぁと)」とか言ってくれそうな女の子が印象的だ。

床は薄いノートみたいな物や紙が散乱していて何ていうか全体的にごみ屋敷だ。

この時初めてオタクという生物の実態を眼にした刹那。

この時彼は…





「なんだか今日は目が霞むな・・・何も見えない」






現実逃避した。










「あ、お前が例の転校生かー…ってそんなにびっくりしなくても良いだろうよ」

「あんたは・・・?」




突然部屋の扉が開いて、聞こえてきたよく通る声。

…すごくまともそうな人だ。

加えて男前でいかにもモテそうな感じがする。

いやでも人は見かけとは違うから、案外コイツがそうなのかもしれない。

二次元美少女に心奪われてやまないある意味とても可哀相な

俺のクラスメイトでありルームメイトなのかもしれない!!






「もしかしてアンタが左の」

「違う違う!!俺は、俺たちは右!そっちはティエリアのスペースだ!お前のクラスメイトのな」

「あ、ああ・・・なんだ、そうなのか・・・」

「とりあえず入れよ。狭いけどな。あ、ソレに触るなよ!崩したら何言われるかわかんねーからな」

「・・・わかった・・・」







ロックオンはとりあえずオタクじゃなくて良い奴だった。

2段ベッドの下はロックオンが使っているから必然的に上が刹那の場所になる。

階段を上って何の気なしに寝転んでみる。






「……ロックオン」

「どうした?」

「異世界が見える」

「見ちゃいけません!!!次第に慣れるけどまだ駄目です!」

「慣れ…!?今慣れるって言ったか!?」





2段ベッドの上から身を乗り出して床に座っていたロックオンを見た。

ロックオンが立ち上がるとゆうに2段ベッドの高さに並んでしまう。

今の目線の高さが同じだ。

どんだけ背高いんだコイツ。





「慣れるんだよ、本当に…。人間様の環境適応能力なめるなよ?」

「そんな能力いらない」

「まあそう絶望するな!段々気にならなくなるのは良い事だゾ」






全然よろしくない。全くよろしくない。

何開き直っちゃってるんだコイツは!!!






「あ、そろそろティエリアも戻ってくるんじゃないか?」

「・・・」

「なんだ、嬉しくないのか?クラスメイトだぞ」

「・・・」

「仲良くやれよ?悪い奴じゃないからさ」

「ああ」







ティエリア・アーデ

そうだ、思い出した。自己紹介の時に男だか女だか解らない奴だと思った記憶がある。

一番まともそうだと思った予想は大きくはずれた。

あんなにはっきり見えていたハズのティエリアの顔が今はなんだか霞んで見えない。













「それでは今からこの部屋での決まりごとを言う。2度は言わない。1度で覚えろ」

「あぁ」





どうせロクな決まりじゃないんだろう。

半ば自暴自棄気味に刹那は思う。

さっきよりはティエリアが見えるようになってきた。






「ひとつ、コレ(壁)を崩さない。崩した奴は万死に値する」

(万死って・・・)

「ひとつ、俺の本は勝手に読むな。特に薄い奴だ」

(薄いってなんだよ)

「ひとつ、月末は話しかけるな。締め切りがある」

(なんのだよ)

「ひとつ、テレビを見てるときは静かにしろ」

(アニメだな)

「ひとつ、部屋を出るときはコレを使え。靴下にトーンが張り付いている時がある」

(コロコロ・・・無駄に親切だな)

「ひとつ、俺のパソコンに触れるな。万死では済まない」

(万死以上ってなんだ?)

「ひとつ」

「ちょっと待て、まだあるのか?」

「ある!!」

「・・・」









1度きりしか言わなくて本当に良かった。

















「夕・飯だァー!!」

「元気だな、ロックオン」

「今日はアレルヤと食べる約束したんだよ!」

「ああ…頑張れよ」





今では変人奇人にも何とか慣れた。




「ロックオン!!貴様!土6は静かにしろと言っているだろう!!!!」

「ぐはッ…!!これは百合……姫…。コロコロよりは優しいぜ…」




………多分。





end


 
モドル